朝の冷たい空気が肌を刺す中、今日という一日の始まりを告げる第一歩は、東京・宝町で踏み出されました。今日の私の使命は、ただ一つ。日本が世界に誇る板画家、棟方志功の書が本物であるか否か、その真贋を確かめること。もしこの書が真筆であると証明されれば、その市場価値は概算で50万円に達するでしょう。私の手の中で、鑑定依頼書を握る指先に、無意識のうちに力がこもります。「頼む…本物であってくれ」。その祈りにも似た願いは、単なる金銭的な期待だけではなく、歴史的な芸術作品に宿る「本物」のオーラに触れたいという、この仕事に携わる者としての純粋な探求心から来るものでした。
現実はいつもスリリング:鑑定という名の審判

しかし、我々が生きる現実は、テレビドラマのように都合よく展開するものではありません。そこには常にリスクが伴います。今回の鑑定にかかる費用は、44,000円。これは、作品が本物であろうと偽物であろうと、専門家の知識と時間に対して支払われる、決して安くはない対価です。もし、万が一にも専門家の口から「残念ながら、これは偽物です」という非情な宣告が下されたならば、その瞬間、私の心と財布は同時に、音を立てて崩れ落ちることになるでしょう。50万円の夢が消え去るだけでなく、44,000円という確実な損失が現実のものとなるのです。
このリユース・鑑定という仕事は、日々がこのようなギリギリの綱渡りの連続です。一つの判断ミスが、大きな損失に直結する。そのプレッシャーは計り知れません。しかし、それでもなお、私たちがこの仕事に情熱を注ぎ、困難な道を進み続けることができるのは、なぜでしょうか。それは、「真実を見極めたい」という根源的な欲求と、歴史の中に埋もれた価値あるものを見つけ出し、次の世代へと繋いでいきたいという強い使命感があるからです。目の前にある品物が持つ本当の価値は何か。作られた背景にはどんな物語があるのか。その真実を追い求めるスリルと興奮こそが、私たちを突き動かす最大の原動力なのです。
舞台は次へ──千葉から東京、終わらない移動と交渉

棟方志功の書の鑑定という第一幕を終え、物語は息つく間もなく次の舞台へと移ります。新たなビジネスの可能性を求め、私が次に向かったのは千葉県。そこでは、事業の拡大に不可欠な、新たな提携業者との重要な契約が待っていました。互いの事業ビジョンを語り合い、信頼関係を築き、未来に向けた協力体制を固める。この交渉の一つひとつが、会社の成長を支える土台となっていきます。無事に契約を締結し、新章の幕開けに安堵したのも束の間、私の足は再び東京へと向けられました。まるで休むことを許されないかのように、携帯電話がけたたましく鳴り響きます。
次なるミッションは、トラブルの渦中にある現場への急行でした。詳細は伏せますが、そこでは予期せぬ問題が発生し、迅速かつ的確な対応が求められていました。関係者からの報告を聞き、状況を冷静に分析し、解決策を提示する。まさに「一難去ってまた一難」という言葉を地で行く展開です。宝町での鑑定に始まり、千葉での契約交渉、そして東京でのトラブル対応。この目まぐるしい一日は、まるで現実世界で繰り広げられるロールプレイングゲーム(RPG)のようです。次から次へと発生するクエストを、自らの知識と経験、そして交渉力を武器にクリアしていく。このスリリングな冒険こそが、私たちの日常なのです。
今日も、挑戦の連続。リユース業という名の成長物語
リユース業の現場は、常に「想定外」との戦いです。完璧に計画を立てたつもりでも、予期せぬ出来事が次々と起こります。贋作のリスク、困難な交渉、突発的なトラブル。しかし、私たちはその一つひとつの挑戦から、決して逃げることはありません。なぜなら、これらの困難な経験こそが、私たちを成長させてくれる最高の糧となることを知っているからです。
一点の曇りもない目で「本物」を見抜く鑑定力。それは、数え切れないほどの品物に触れ、膨大な知識を蓄積し、時には痛い失敗を経験することによってのみ磨かれていきます。そして、人と人との「信頼」を築き上げる交渉力。これは、相手の立場を理解し、誠実に向き合い、互いにとって最善の着地点を見つけ出すという、地道な努力の積み重ねによって培われるものです。
これらの力を通じて、最終的に私たちが磨いているのは、他の誰でもない「自分自身」なのです。困難な課題に立ち向かうことで精神力は鍛えられ、多様な価値観に触れることで人間としての深みが増していく。リユース業とは、単に古いモノを売買する仕事ではありません。モノに宿る物語を読み解き、新たな価値を創造し、そのプロセスを通じて自分自身をも磨き上げていく、壮大な成長物語なのです。
今日もまた、波乱と挑戦に満ちた一日が、静かに幕を開けました。この先にどんな出会いと発見が待っているのか。その期待を胸に、私は再び前へと進みます。

採用に関するご相談